函館山の頂で、
函館の街を見下ろしている。せっかくの旅にもかかわらず、朝から雨だったが、すぐにあがり、雨予報に反して午後になってもまだ落ちてこない。どうやら、ついている。山と海に挟まれた街を海側から見下ろすことができる景色というのは、案外無いように思う。こここそ、絶景だ。
函館山はもともとは火山噴火で隆起した島だったというが、砂が堆積して陸続きになった。眼下に見えるのはその砂州だ。まっすぐ先に五稜郭タワーが見える。右手の海岸沿いには湯の川温泉街、競馬場、空港までよく見える。右手の海は津軽海峡だ。左手は函館湾、かつての青函連絡船の記念館として、摩周丸が停泊している。遠くにはフェリーも見える。函館山の麓には古い教会の鮮やかなブルーの屋根と十字架が見える。その先には洋館や、レンガ倉庫。乗せてきてもらったタクシーの運転手さんが函館は北海道第三の都市だといっていたが、印象は港町といった感じだ。歴史ある港町。来て良かった。
函館へ、
話は戻る。羽田へは最寄駅前からバスに乗る。2泊3日の旅を目一杯楽しむために、朝一番、7:15発の便を取ったから、まだ夜が開けていない。秋の旅行はすっかり恒例になってはいるが、空の旅はやはり気分が上がる。妻も機嫌がいい。二人とも行ったことのない所、三日間の旅に合ったコンパクトな街、函館を選んだ。妻は美味しいものを食べることがこの旅の一番の期待のようだ。燃えよ剣を愛読している僕にとっては、土方歳三最期の地を訪ねることが念願だ。この旅の直前、近藤勇最期の地、板橋を訪ねてきたから、気持ちの準備は万全だ。
函館朝市
函館空港まであっという間に着いた。飛行時間はたった1時間15分だ。天気予報でわかってはいたが、あいにくの雨だ。10月ももう終わるが、気温は暖かい。金曜日、朝、タクシーの列に人はいない。ホテルまで楽をしよう。ラビスタ函館ベイANNEXまで、20分もかからなかった。便利な街だ。まだ9時を過ぎたばかりだから、フロントで荷物を預けて、さあ、朝ごはんだ。すでに行く所は決まっている。函館朝市まで歩いて数分だ。
イカ釣り、妻のたっての希望は、生簀のスルメイカを自分で釣って、その場ですぐに捌いてくれる、という、グルメとアトラクションの融合だ。すでに何人かか列をつくっている。一尾1500円。スルメイカにしてはよい値段だが、釣り上げる楽しさ、実際は針で引っ掛けるだけだが、捌き立ての動くイカには驚いた。コリコリして、とても美味かったし、なにより妻が楽しそうだった。
もう少しいただこう。定番の海鮮丼。まぐろ、イカ、海老、ウニ、どんぶりというほど大きな器ではないが、僕たちにはちょうどいい。
歳三、最期の地
函館朝市から歩く。10分もかからずに、一本木関門跡に着く。土方歳三最期の地碑だ。諸説あるようだが、官軍にほぼ占拠された函館市街、孤立した弁天台場の味方を救出するために少ない手勢を連れて五稜郭から打ったて出た歳三、ここで馬上銃弾を浴びて死んだ。燃えよ剣では、函館政府軍陸軍奉行並でなはなく、新選組副長土方歳三と名乗りを上げるのだ。35歳で死んだ歳三、僕はすっかり歳をとったよ。
教会
午後に函館山に登った帰り、麓にある教会に立ち寄った。函館正ヨハネ教会、函館ハリストス正教会、カトリック本町教会。僕はクリスチャンではないけれど、どれも美しさには感銘を受けた。とくにハリストス教会の美しいブルーは印象的だ。ロシア正教と聞いて、遠い地の侵略戦争との矛盾を憂う。
有名な八幡坂もこの近くだ。港まで続く坂道には多くの観光客が集まっている。坂道を背景に妻の写真も撮る。嬉しそうだ。
ジンギスカン・羊羊亭
夕食はジンギスカンだ。ぜひ食べたいと思い、予約しておいた。生のラム肉が売りで、かなり人気のお店というので予約は必須だという。確かに美味い。厚切りのラムはとても柔らかく、臭みというものはなく、ほのかにラムの香り、とくに塩ダレが美味かった。肉汁を吸った野菜、とくにもやしが美味い。ラム肉も、野菜もおかわり必須だ。肉を塩だけで食べても美味かった。むしろ、塩だけが一番美味いかもしれない。ビールから初めて、レモンサワー、酒も止まらない。
ラビスタ函館ベイANNEX
ホテルはラピスタ函館。朝食バイキングが日本一ともいわれているらしい。一休のクチコミは函館で最高点だ。ラビスタ函館の近くにあるANNEXは、同じくクオリティで新しく、貸切温泉風呂があることが違いだ。貸切温泉風呂は妻の希望だ。僕も気持ちよく浸かったが、なにせ飲み過ぎたようで、あまりよく覚えいない。
朝は7時に起きることにした。評判の朝食をしっかりいただくためだ。イクラも食べ放題に妻が喜び、朝からスパークリングワインも飲み放題だ。とにかく種類が豊富で、和食系だけに絞ってもずいぶんある。悪い癖で、全種類といわないまでも、できる限り皿に取ったらたいへんなことになってしまった。最後に海鮮丼を自分でつくる。イクラはごはん茶碗からこぼれる寸前だ。食べ切れるだろうか。
お世辞抜きで、どれも美味しかった。焼き物も美味いし、味噌汁も美味いし、自分で作った海鮮丼は昨日の2500円の海鮮丼より美味かった。腹一杯だ。おそらく昼ごはんはもういらない。妻も大満足のようだ。このホテルにして良かった。朝なので、スパークリングワインは一杯で満足した。
市電
今日は五稜郭に行く。市電と徒歩で30分くらいのようだ。路面電車はいいですね。風情があると書くと、何のことかよくわからない。速度が遅いので、車窓を眺めるのが楽しい。ゆっくり交差点を直角に曲がっていくときの眺めは路面電車ならではだ。帰りも楽しみだ。
五稜郭
五稜郭、いつか来たいと思っていた。ようやく念願が叶った。まず五稜郭タワーに登る。これを建てようと考えた人は本当にすごい。五稜郭を上から眺めるなんて。土方歳三も、榎本武揚もこの景色は見たことがなかったはずだ。美しい城郭だ。今日も予報に反して雨が落ちてこない。やはり、ついている。
五稜郭は思っていたよりも広い。箱館奉行所の屋敷が再建されているが、当時と同じ技術で建てられている。素晴らしい。歳三はここで死の前夜を過ごした。ここに居たんだね。「歳、箱館は明日陥ちるよ」、夢か幻か、先に死んだ盟友、近藤勇と再会する。沖田総司、井上源三郎もいる。司馬遼太郎さんが「燃えよ剣」で描いた歳三が過ごした五稜郭の最期だ。僕もときどき死んでしまった親しい人に会いたいと思う。僕はもう56歳になったけれど。
そういえば、僕は宇宙戦艦ヤマトも好きだったが、「さらば宇宙戦艦ヤマト」のラストシーンは「燃えよ剣」に描かれた歳三最期の日のオマージュではなかろうか。
梅乃寿司
二日目の夕食は寿司だ。妻のたっての希望だ。かなりの人気店、梅乃寿司だ。この店は3ヶ月くらい前に予約した。人気店で簡単には予約が取れない。取れた時間は開店時間と同じ17時。着いたときにはまだ他に客はおらず、カウンターの真ん中に案内してくれた。大将が目の前で握ってくれる寿司なんていつ以来だろうか。イカのお造り、昨日のスルメイカと違って真イカ、歯応えよりもまったりとした食感、山わさびも美味い。おまかせの握り、10貫、どれも最高。追加で握りを食べ尽くした。カニの握りはおかわりした。ほたて、ホッキ貝、まぐろ、うに、さんま、つまみのあん肝を美味い。キンキの煮付けも美味かった。函館の日本酒、五稜も美味かった。ここの寿司、間違いなく自分史上最も美味しい寿司だった。ここを超える寿司があるのだろうか。函館に行ったら、絶対に行くべき店だ。
夜の函館山
函館山からの夜景もこの旅では外せない。もう一度、あの頂へ。梅乃寿司の予約が17時だったのはたまたまだが、夜景を見に行くにはちょうど良かった。今日はバスで行こう。函館山はロープウェイが目玉だが、ちょうど点検期間で運行していないのだ。運が悪かったが、今日もまだ雨は落ちてこないから、やはり、ついているのだ。
昼間の眺めも最高だったが、夜景も素晴らしい。麓の教会がライトアップされている。津軽海峡の闇とすっかり明かりで埋まった砂州、そして函館湾。もう一度来て良かった。
2泊目、ラビスタ
2回目の朝食バイキングだ。昨日の経験を生かし、海鮮中心に、海鮮丼づくりから始めた。いくら食べ放題がここの売りだが、今日は存分に盛ることが出来た。今日もスパークリングワインは一杯だけにしておく。海鮮丼はおかわりした。朝から贅沢だ。前評判どおり、素晴らしい。このホテルは本当におすすめだ。値段も手頃で、接客も申し分ない。このホテルは本当におすすめだ。
湯の川温泉
この旅で迷ったのは、湯の川温泉に泊まるかどうか。結局、ラビスタに2泊したが、せっかくなので足を伸ばしてみる。今日も市電で、のんびり。今日は天気予報でも晴れだ。暖かい。
湯の川温泉前で降り、目の前の交差点に面した足湯を楽しむ。ここはテレビの旅番組で観たところで、楽しみにしていた。意外にも僕たちの他には誰もいない。貸し切りだ。実は足湯は初めてだ。浸かってみると、思っていたより湯温が高い。熱い、と思ったが、じきに慣れてきた。足湯とはこういうものなのか。不思議とじんわり全身が温まってくる。二人でぼぉっとするだけ、通り過ぎる路面電車を眺めながら。
函館朝市
今日で旅はおしまいなので、土産を買いに函館朝市にまたやって来た。目当ては海産だ。宅配で家に送る。HPを見ると、たまに観光客相手に悪質なお店もあるらしい。公式推奨店のラベルを貼った店で買うべし、とある。とにかくたくさんお店があるので、どこにしたら良いのかわからない。ラベルに注意しながら、店前に客がたくさんいる店を覗いてみると、愛想のよいおじさんが接客してくれた。良さそうな店だ。早速、蟹を選ぶ。ずわい、毛蟹、迷ったが、食べた事のない蟹、花咲蟹とやらにしてみた。トゲをまとったインパクトのある外観だ。味か楽しみだ。次は、干物。ほっけ、キンキ、ししゃも。どれもロシア産の代用魚、実は違う種類の魚があることを、昨夜寿司屋で教わった。ししゃものことはし知っていたが、他は知らなかった。どちらも並んでいるが、値段がまったく違う。おじさんに聞くと、隠さず違いを教えてくれる。この店は正解かもしれない。昨夜のキンキは美味かった。もう一度食べたい。北海道どいえば、ほっけだ。この旅では食べていない。どうせなら、本物のほっけを食べてみたい。ししゃも、ししゃもは好きだ、子持ちししゃもはたまに食べるが、本物は食べたことがない。おじさんいわく、オスの方が味が良いのだとか、本物のししゃもも食べてみたい。結局、3つとも買ってしまった。おじさんの接客の技か。推奨店は宅配後のトラブル対応や今後の注文のために名刺をくれるともHPに書いてあったが、確かにおじさんは名刺をくれた。ずいぶん奮発してしまったが、子どもたちや母も喜ぶだろう。
うに むらかみ
すべての予定が終わった、と思ったら、朝市の目の前に人気店、うにむらかみをみつけた。行列の店と聞いていたが、待っている客は二人だけ。朝食をたっぷりいただきているので、実はあまりお腹は空いていないのだけれど、うに好きの妻は逃したくないようだ。よし、こうなったら北海道を食べ尽くさせてあげよう。うに丼。初日の海鮮丼にも載っていたが、一口くらいのもので、こんなに贅沢なウニ丼は初めてだ。味も美味い。迷ったが、やっぱり食べて良かった。
函館空港
2泊3日の函館旅。あっという間だったな。天気も持ったし、行きたいところにはすべて行けたし、食べたいものもすべて食べた。妻が、喜んでいたから、僕も満足だ。
最後に空港で地ビールをいただく。保安検査場を過ぎてから、本当にここで最後だ。軽くつまみも、と思ってメニューを見ると揚げ物ばかりだ。揚げ物しかないんだね、とつい口をついてしまった。お店のおばさんは、すみませんね、揚げ物だけなの、でもこのコロッケはおすすめですよ、というので、試してみることにした。確かに美味い、北海道のじゃがいもなのだろう、食べてみてよかった。食べ終わったところで、ようやく店の名前に気づいた。「FLIGHT FRY」。おばさん、ごめんなさい。
旅は終わった。次の旅も楽しみだ。また、二人で。